全開ケイデンス福岡39
     東真小話 (東堂成人済み&半同棲的感じの未来妄想恋人設定)




    「……ン。とぉど、さん」
    するりと伸びてきた掌が頬に触れて、指先が首筋に流れるように動く。冷たいだろうと予想していた指先は思いの外温かくて、肩透かしを食らったように力が抜けた。促されるみたいに顔の角度を変えられるまま小さく名前を呼んだら、さっきまで触れてた唇がまた近付いて、はくりと柔らかく口を食べられるようにキス。
    違うから。名前を呼んだのは、もっとって意味じゃなくて。
    そうは思いながらもキス自体が嫌なわけじゃないから、跳ね退けることも拒むこともしない。それでも手に掴んだままのそれをどうするかなと少しだけ迷って、オレの顔を両手で包み込んで口付けを繰り返すその人の気が済むまで付き合おうかと、持っていたペットボトルを手近な棚に置いた。
    とん、と地につく安定感が手のひらに伝わって、手探りでしたその動作が完了したことに安堵。そんなオレの意図も動きも多分分かってる筈なのに、気付いてる筈なのに、それでも尚キスを繰り返し降らせて来る東堂さんからは、普段と違う匂いがする。言おうとして塞がれた匂い。
    「ん、」
    声なのか音なのか、自分から発せられるそれが玄関っていう狭い空間に響いて、迫ってきた東堂さんに追いつめられるようにして背に当てることになった壁が、服越しに微妙な冷たさを伝えてくる。
    ここは玄関で、東堂さんよりも先に帰ってたオレは部屋着で、その反対に東堂さんは外の冷たい空気を纏ったコートを着たまま。飲み物を取りに行って部屋に戻るそのタイミングで帰宅した東堂さんと、おかえり、ただいまってやりとりをした後がこれで、でも甘ったるいわけじゃなくて、動物がじゃれ合うスキンシップみたいだと思う。ちゃんと言葉も交わせるのに、帰って早々に行動でオレを好きだって東堂さんが言ってるのかもと考えたら、少し笑える。だって、あの口達者なこの人が。
    「……どうした?」
    ちゅ、ちゅって音が鳴ってる気がするようなキスを唇だけじゃなく顔中に降らせている東堂さんがその合間に小さく問いかけて来て、自分が本当に笑ってたのかもしれないと気付いて、今度は自覚を持って笑う。
    何だろう。楽しい?
    「東堂さん、呑んでますよね」
    お酒。
    いつもと違う匂いの原因は十中八九それで、お酒を飲んできた東堂さんは何故か普段よりキスをしたがる。
    「だから舌は入れてないだろう」
    自然と口から零れた俺の言葉に怒るでも拗ねるでもなくそう告げられて、キスが一向に深くならない理由を知る。
    「別に、嫌じゃないですよ?」
    そんな東堂さんとキスするの。暗にそう含んで言ってみたものの、気にならない訳じゃないけど、と少しだけ付け加えたくもなる。アルコールの味とかよく分からないけど、東堂さんの息が、舌が、何か違うと思うから。
    「どうだかな」
    それを直接伝えた事はないけど、オレの言葉に含み笑いを浮かべてそう言う東堂さんはオレ以上に何かを知ってるのかもしれない。けど、言われないから聞かない。深い長いキスをするならいつも通りの東堂さんがいいのは変わらないから。
    その東堂さんの手が耳元から後ろへ頭を撫でるように動いて、服越しに背筋をなぞる。唇にと思った整った薄めの口は頬に落ちて、そのまま顎を伝って首筋に。
    「わひゃ!」
    今日は一段とキス魔になってる気がする東堂さんに、気が済むまで付き合おうと考えたのは間違いだったかもしれなんて考えてたところに、ただの戯れだと思っていた手のひらが予想外に入り込んできて声を上げると、吹き出すような東堂さんの笑い声。
    「も、急に触るから…」
    「すまんね」
    「悪いとか思ってないでしょ」
    くっくと笑い続けてるくせに服の中に入り込んで直接肌を撫でる手は止まる素振りすらなく、胸元にせり上がってくる。そのせいで捲れ上がった服から入り込んで来る玄関先の冷たい空気に、ふるりと身体が震えた。
    「東堂さん、ちょっ、寒い」
    笑われたことよりも暖かかった身体が冷える方が嫌で言葉尻を強めて東堂さんの手を引き剥がそうとした時に、丁度何かに気付いたような反応をされたかと思えば、身体を離した東堂さんに勢いよく上着をガバッと捲り上げられる。と一緒に、一気に触れた冷気に身が竦む。
    「っわ、だから寒いってさっきから……!」
    「真波、これは?」
    「へ?」
    何。何なの。こっちは東堂さんみたいに厚着してないんだけど、と思いながらオレの胸元を指す東堂さんに対して首を傾げ数秒。自分の胸に感覚を集中させたことで忘れていた違和感を思い出した。
    「あ。あー……えと、それ、怪我とかじゃないから心配しなくても平、気……ってなんで触るの?」
    「男の性だな」
    そうだった、とそれぞれの両胸の中心を覆うように貼った絆創膏の存在を説明する最中にそこを撫でてくる東堂さんに理由を問えば、意味の分からない回答。本当に分からない。別にオレ、東堂さんが胸に絆創膏貼ってても触りたくならないけど。
    「ジャージが擦れて痛い気がするっていったら、貼ると楽だって教えてもらって……、だから」
    「今も貼ってるということは、まだ痛いんだろう?」
    「それはただ剥がすの忘れてただけで」
    あぁもう、だから触るの止めてってば。
    親指の腹で胸の突起を覆うガーゼ部分をメインに撫で続けられるその感覚に、身体の中がむずむずする。ついでに寒さを感じたからか、絆創膏越しに触れられてるそこが鈍い痛みに似た感覚を連れて反応してるのにも気付く。気付きはするけど自然現象みたいなそれはどうしようもなくて、少し硬くなってる気がするそれは東堂さんに触れられたからじゃないって言いたいけど、気付かれてなかったらと思うと言い出せない。
    「……痛くないか?」
    「っない、ですけど」
    前言撤回。絶対気付いてる。
    冷気で過敏になったそこをくるりと円を描くように撫でられて、指の腹で押し潰すように擦られて、寒さからじゃなく身体が震える。直接触れているわけじゃないからか、ぎゅ、と強めに押し潰されてその反動で戻る尖りは、スイッチが入ったみたいに違う感覚を連れて来て、もう、と声が漏れた。
    「とーどーさんがそうやって弄るから、こんなの貼ることになったのに」
    微妙に上がってしまった息を整えるように、っふ、と息を吐いて言えば、張本人の東堂さんが愉しげに笑う。
    「それは、おまえとココが愛らしいのが悪いな」
    「ちょ、」
    そう言って懲りずにすりすりと、突起があってない場所を撫でられて、その上周りから攻めるように触れ方を変えられて、ひくんと身体が跳ねる。
    「ほら」
    愛らしいの言葉がどういう意味か証明でもするつもりなのか、東堂さんの指は止まらない。どころか、片側に触れるだけだったそれが気付けば両方に指先を伸ばされてる。
    「だから、ここ寒いか、っぁ、あ……やだ、って」
    ガーゼの上を爪先が辿っていくのに合わせて声が上擦る。直接じゃないその刺激がもどかしい、なんて思ったら東堂さんの思う壺なのは分かるけど、どうせ触るならちゃんとしてよなんて思考が頭を巡ってるから、もう手遅れかもしれない。
    「そう言う割には…」
    「ひゃ、くしゅ!」
    「……ん? あぁ、寒いというのは本当か」
    じわじわとオレの熱を上げようとする分、肌に触れた空気との温度差に身体が正直に反応したみたいで、くしゃみが一回。それを聞いた東堂さんがオレの素肌に鳥肌が立っているのを確認してそう呟くと、ようやく戯れの手を止めてくれた。
    「もう……だからさっきから寒いって言ってたのに」
    ず、と小さく鼻を啜って服を直しながら抗議すると、さて入るか、と部屋の中に促されて、そこは大人しく従っておく。
    「続きは中で、だな」
    「え、まだするの?」
    東堂さんに続いて進めようとした足を止めてそう言えば、キス魔もまだ続行中なのか目元に触れるだけの口付けをして、その手にオレが持ってきた筈のペットボトルが握られる。
    「付き合う気でいたんだろう?」
    それから自信満々な顔でそんな風に言ってくるこの人は、どうやってオレの思考を見抜いてるんだろう。


    あぁもうほんとに、どこまでも狡いんだから。




    (2016.01.19)
    スポンサードリンク


    この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
    コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
    また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

    コメントフォーム

    以下のフォームからコメントを投稿してください