巻坂&東真の世界の坂道くんが、東堂さんに抱かれてる巻島さんの夢を見てしまうお話のため、CP混在が苦手な方は特にご注意ください。
    東真前提真波くん編の続きですが単独でも読めます。






    ※特殊設定ワンクッション※

    このお話は、巻坂&東真前提の東巻R指定描写があります。
    R指定は東巻描写のみです。巻島さんがあまり受けっぽくないような気もしますが、東堂さんが挿れてるので東巻です。(酷い理由)
    毎度のことながらエロに期待は厳禁です。
    真波くん編同様、夢ネタのため東真&巻坂にブレはありません。
    頭の中では半分ギャグで落ちる予定なくらい頭の緩い話です。

    どうか深く考えずお読みくださいませ。








    扉を開けてしまったのか。
    開いている扉を覗き込んだのか。
    それとも、その中にただ入り込んでしまっただけなのか。

    どれが正解なのか分からない。
    でも、これは夢で、現実じゃなくて、自分が夢を見ているんだっていう自覚があるってことは、分かる。
    ……分かる、けど。

    (どっ、ひゃぁあああ……!!)
    なんていう。
    何ていう夢を見てしまってるんだろうか。
    見えてしまったものから視線を外すどころの騒ぎではなく、慌てたようにそれから音が鳴りそうな勢いで身体を反転させて背を向ける。
    (ゆゆゆ、ゆめ! そうだよ、これは夢で、でも、巻島さんが……!)

    「っは、っん、ン!」

    荒い息遣い。脳を、思考をクラりとさせる空気が、背中どころかその場にいる坂道の身体全体に纏わりついてくるようで、ビクリと身体が震える。夢の中だからこそなのか、それとも足が竦んでしまっているからなのか、この空間から逃れられないと無意識下で感じる。
    出たい。でも、出られない。
    背を向けた所で空間からは逃れられないらしく、耳を覆ってしまいたくなるような淫靡な音が感覚を震わせる。
    色の濃い空気に身体を撫でられているような感覚に、どうしようもなく坂道の身体が震えた。
    (夢、だよね? 夢なのに?)
    頭の中でそう繰り返しても、聞こえる声に、届く音に、ぶわりと熱が顔に溜まっていくのは変わらない。
    本当にこれは夢なのかと疑いたくなる程に聞こえるそれがリアル過ぎて、坂道は何度も自分の頬を抓ってみた。
    (……い、痛くない)
    でも。
    纏わりつく空気と音で、じくりと坂道の細い身体が反応している。
    夢なのに変な所がリアルで、でも坂道としては見てしまったものが現実であってほしくはない。
    一瞬であれども見えた光景が目に焼き付いて離れなくてギュッと目を瞑れば、焼き付いたそれが耳に届く嬌声に合わせるように動き出してしまう。
    こんな時に妄想力なんていらないから!
    そう叫びだしてしまいそうになった坂道は、慌てて自分の口元に手を当てて、その大きな目に涙を浮かべた。
    (巻島さんと東堂さんが、……してる、なんて!)

    そんな坂道の目に焼き付いてしまったそれは、恋人である巻島が、自分の友人でもある真波という恋人を持った東堂に抱かれている光景だった。

    「……ぁ、巻ちゃん、まき、ちゃ」
    「ッひ! ア、ッん、む……」

    何で、どうして?と沸騰しそうな程に頭をグルグルとさせながらどうこの状況から抜け出そうと考える坂道の耳に一際高い声が響き、ビクリと身体が竦む。けれどその後、濡れた音は変わらず、荒い息も変わらずに耳に流れ込んでくるにも拘らず、聞こえる嬌声が随分と少なくなったことに坂道は若干身体の強張りを解いた。
    その代わりに耳を響かせるのは抑えるような息遣い。
    (まきしま、さん……?)
    思わず振り返ってしまった。
    坂道にとって巻島は特別だ。恋人になるその前から、どうしようもなく憧れて、惹かれて、信じて、慕ってきた存在だ。そんな人に何かあったのかと思ってしまえば、振り返らずにはいられない。
    (……ッ!)
    けれど、その先に見たものに頭を強く殴られたような衝撃を与えられて、坂道は言葉を失った。
    高く上がる腰から下り落ちるようにしなやかなラインを描く背中。その肌には光を反射する汗が浮かび、重力に従ってその首元へと流れていく。巻島の特徴でもある長い緑の髪は汗でしっとりと濡れて、各々好きなように汗ばむ身体や首元に絡みついている。
    その先にある先程まで嬌声を零していた唇は、それを堪えるためか長い指を咥え、身体がビクリと跳ね眉をしかめたそれと同時にそこからチラリと白い歯を覗かせた。
    (あ、噛んじゃ……)

    「巻、ちゃん……傷に、なる」
    「っぁ……」

    ギ、と歯を食いしばるように見えた瞬間、それまでの羞恥や見ている光景を忘れて巻島の心配をした坂道の心情を悟るかのように、巻島を抱く東堂が声をかけ、その指に手を添わせた。

    「っは、……噛むなら指を貸すぞ」

    そんな言葉と共に、東堂は自身の指を噛む巻島のその口端から半ば無理矢理に指を滑り込ませていく。見える以上に力が篭っているのかそれとも反射的にか、抵抗も少なくその指は開いた口の中へと入り込む。覗いた赤い舌がトロリと溶けているように見えたのは気のせいか否か。
    巻島の口内に入り込んだ指先は戯れのようにその中を撫でるように動き、東堂の整った指の動きに従って、開いた唇から透明な唾液が流れ落ちた。

    「……ッ、いるかヨ」

    入り込む東堂の指に自分の指を引いた巻島が見せつけるようにその悪戯な指を噛むと、ハ、と荒い息を吐いた東堂が唾液を絡ませたその指を引き抜いた。

    ──── 声は出してくれ、聞きたい。

    そう甘く囁く東堂の声に、言われた当人である巻島が眉を顰めて抗議した代わりに、坂道はジワジワと紅潮していく頬を止められなかった。
    (真波くんが言ってたのってこういうこと……?)
    どうしてこんな夢を見てしまっているのかも、二人がどんな関係にあるのかも分からないけれど、坂道にはどう見てもこの二人が恋人同士であるように見えた。
    身体的な意味でなく繋がって、分かっていて、理解し合っていて。
    冗談のようにも悪戯のようにも見える東堂の行動は、その表情を見れば分かる。欲に濡れて、愛情に溢れて、優しさと独占欲を滲ませて。
    (巻島さんを、好きだって言ってるみたいだ)
    気付けば逸らせなくなっていたその光景を、最初に見てしまった時とはどこか違う感情で見つめる。
    魅入っていた。

    ──── 東堂さんに抱かれてると、色々怖くなる

    組んだ両腕に顔を埋めて隠し、ポツリと呟いた友人の言葉を思い出す。
    嫌だとかそういうのじゃなくて、と加えられたそれは、染まった耳の端を見れば坂道でも分かることで、うん、と続きを促して恥ずかしくなるような惚気話を聞いてしまったのはいつ頃だったか。
    爽やかで、格好良くて、自転車が早くて。そんな友人である真波に対して可愛いと思った。
    でも、それも仕方ないのかもしれないと思う。

    「ゥん、っは、あ、ア……!」

    自由になってしまった唇から再びあがり始める嬌声。普段坂道を抱く巻島からは聞いたこともないソレが、坂道の鼓膜を震わせる。
    焦れるようにシーツを掴む指先も、快楽に染まる目元も、口元からだらしなく唾液を流していくそんな表情も、見たことはない。
    それでも、嫌悪感は湧かなかった。
    不思議と嫉妬するような感情も湧いてこなかった。
    (気持ち、良さそう……)
    思ったのはそんな単純な事だ。
    坂道を抱いている巻島を見て、そう思ったことがなかったわけじゃない。眉を寄せて歯を食いしばり、ハッと荒い息を吐くそれだって、そう思う。
    熱に浮いた声で坂道の名を呼ぶその声が好きだ。
    でも、もっと欲を出した顔を見たいのに、自分に限界が来るのが早くて見逃してしまう事もきっと少なくは無い筈だ。今じゃ足りない。もっともっと、気持ちいいと思って欲しい。そんな姿が見たい。
    そう思っていたからかもしれない。
    (真波くん、ごめん)
    きっとその相手が東堂なのは、真波からあんな話を聞いてしまったせいだと思う。
    それでも、少しの罪悪感を感じながらも、坂道は二人の行為からもう目を離す事が出来なかった。

    重なって、ズレて、焦れていく二人分の息遣い。
    「っは、あ、とうどぉ、止め……ッ!」
    制止を促す声。流れていく汗を逆流させるように、背の窪みを尻へと向かい指先で撫で上げた東堂の指がある一点に差し掛かったところで、巻島の上半身がぐにゃりと崩れた。
    「……~ッ!!」
    それとほぼ同時に、それまで余裕を持っているように見えた東堂が、焦り息を詰まらせた。
    「ッ、巻ちゃ、いきなり締めないでくれ」
    「ざまぁ、ミロ」
    突然の締め付けに、それでも身体をビクリと大きく跳ねさせたのみで射精を何とかやり過ごした東堂の息が荒く耳に残る。落ちた頭部から若干顎を引き、首を僅かに捻って東堂に向けられる巻島の笑みは優位に立った時のそれに近く、けれどドロリとした欲に塗れて中に入った東堂自身を引き締めているのは故意ではない。
    そんな嗤う巻島に口元を引き攣らせて感情をあらわにした東堂は、そうかと呟くと再び巻島の背に指先を伸ばした。
    「おい、東堂……?」
    その動きと背中越しの雰囲気に嫌な予感でも走ったのか、訝しげな、そして若干声を震わせて東堂の名を呼ぶ巻島の声が響く。
    「巻ちゃんの背中にそんなにイイ場所があったとは、知らなかった」
    先程までの表情をガラリと変え、綺麗に整った唇を手本のように微笑ませる。
    にこりと微笑んでいる筈だ。
    (え、こ……怖いです東堂さん……!)
    それを間近で見ている巻島本人のみならず、傍から見ている坂道にすらゾクリと悪寒が走った。
    「ちょ、待てとうど……ッ!」
    何事もそつなくこなす。それ故か否か、先程巻島の身体を跳ねさせたポイントを正確に、的確に、東堂の指先がなぞる。それを止める術を持たなかった巻島の身体がブルリと震え、堪えるように息を呑む。
    けれど、それは巻島の中に己を挿れている東堂にも同じように快楽の波が来る筈だ。それを分かっていない筈などないのに、東堂の指先は力加減を変えて容赦なくそこを撫で上げた。
    「やめ、っぁ、とうど……じんぱち……ッ」
    その指が動く度に、巻島の身体に震えが走る。額を枕に押し付けてそれに耐え、震えた膝がシーツに荒い波を作り、何かに反応するかのように脹脛がピクリと跳ねる。
    抵抗の声は甘く弱く、東堂の名を呼ぶ。
    ゾクリと感じた筈の悪寒が、今度は身体の中の熱に変化して、気付けば坂道の中で暴れだした。
    (……っ)
    ジクリと疼いてしまった下肢に息を詰めて膝を擦り合わせるも、それで誤魔化しきれそうもない。
    (でも、だって、どうしよう)

    これは夢だ。夢の筈だ。
    そんな中で熱を持ってしまった身体をどうすればいい?
    知らない。分からない。

    「一緒に、高みにイこうじゃないか、巻ちゃん」
    「ッア! は、っぁ、ン」
    熱い息を吐き律動によって言葉を途切れさせる東堂の声が響く。巻島の嬌声が、響く。
    身体を揺さぶられる巻島のそれに呼応していくように、坂道の熱が上がっていく。
    (どう、しよう……ジンジンする……っ)
    はぁ、と熱くなった息を吐くけれど、熱は下がりそうもない。解放へ、解放へと動き出そうとする。動いていく。
    (まきしま、さ……)
    視線を外せないまま見ていた光景の中で、意識して助けを求めるように見た巻島の熱がひくりと揺れた。脚が痙攣するように震えた。見えた。見てしまった。
    (あ、だめ……もうだめ……!)
    坂道の視線の先で巻島が果てる瞬間、同様に坂道も限界を迎え身体を震わせていた。





     * * * * * * * * * * * * * *



    ぱちり。目が覚める。
    意識が浮上するゆっくりしたものではなく、表現するままに目を覚ました坂道が最初に感じたのは、巻島の身体の温もりだった。
    電気は勿論、外から入り込む光は少なく、更に眼鏡もないために視界は決して良好とは言い難いけれど、目の前に広がる巻島の胸板にほわりと坂道の顔が緩む。
    が、その直後、ピクリと身体を跳ねさせた。
    (え、あれ、これってもしか、して……?)
    ホワンと温かい気持ちになったのも束の間、坂道にとっては馴染みのない下肢の濡れた感触に冷や汗が流れだす。
    あれは夢だ。確かに、夢だった。今目が覚めたのだ。
    けれど、夢の終わりに感じたあの解放感は……?
    確認をすることが何だか怖くて恥ずかしくて、それでも予想通りである筈の下肢をこのままにしておけば布団を汚してしまいかねない、そう考えて殊更遠慮がちに坂道はモゾモゾと身体を動かした。
    (巻島さんが起きませんよう、に)
    気持ちよく寝ている所を起こしてしまったら申し訳ない。
    最初はそれだけだった気持ちが、ふと自分の現象を巻島に知られたらと考えてみたらブワッと羞恥心が溢れ出る。
    (……お願いですから、起きないでください!)
    必死にそれだけを願ってベッドを無事下りた所で、油断してしまっていたのか濡れた感触に小さく声を上げてしまった。
    そろり、と布団に包まる巻島を振り返り、瞳を開けていないことを確認して安堵の息を吐くと、坂道は一目散に洗面台のあるバスルームへと駆け込んだ。

    「うぅうう……」
    恥ずかしい。
    やはり予想通りであった下半身に何とも言えない気持ちになりながら、下着を洗う。
    しかも、替えの下着をここまで持ってきていないので現在坂道の下肢は見事に何も着用していない。
    恥ずかしい。何度思っても足りないことを再度思う。
    (あんな夢見ちゃうから……!自分のバカ!)
    そうでなければ今頃、温かい巻島の腕の中でその寝顔を堪能しながら心地好い朝の目覚めを堪能していた筈なのに。
    バシャバシャと若干荒くなってしまった手元から水を跳ねさせながら、一緒に羞恥心も記憶も流れてしまえと思う。
    そう強く念じすぎて、坂道は後ろから近づく足音に全く気付かなかった。
    「……坂道ィ?」
    「はいッ!」
    名を呼ばれて思わず返事をした。習性のようなものだ。巻島に呼ばれれば答える。
    そう、巻島に。
    「ま、まきし、ま……さん?」
    瞬間カチコチに凍った身体を動かすことは容易ではなくて、ぎこちなさ過ぎる動きで後ろを振り返ろうとする。振り返らなくとも、声をかけられて顔を上げたその視界の端に、洗面台の鏡に映った巻島の姿が見えたのだ。間違いや幻聴ではないのは分かっている。
    振り返らなきゃ。
    でも。
    「一人で布団抜け出して、ナァニやってんだァ?」
    ぐるぐる回るだけの思考回路を知ってか知らずか、再び巻島の声がかかる。
    ……これは、バレてるんだろうか。
    声音ですぐには分からない。
    分かっていて坂道の羞恥心を煽るために言っているのか、それとも黙って布団を抜け出したことを責めているのか。
    「あの、いえ、これはですね……!」
    どうしよう誤魔化したい!
    そんな気持ちが行動に現れてしまったのか、振り返りざまに濡れた手で下肢を隠すようにパジャマの裾を引っ張ってしまい、巻島の視線がそこへと移る。
    (あぁあ! 僕の馬鹿……っ!)
    気付いた時には既に遅し。
    朝目が覚めて、パジャマの下を脱いで、洗面所で隠れるように何かを洗っている。その答えはおそらく、容易に想像出来ることだろう。
    「アー……成程、ナ」
    「わわわ、忘れてくださいお願いします……!」
    同情するような表情をしたのも一瞬、坂道に見せるには珍しい意地の悪い顔をした巻島を確認してしまった瞬間、坂道の羞恥心に一気に火がついてしまった。
    知られた!見られた!恥ずかしい……!!
    「本当、お願いします! こんなの恥ず……って、あ、あの……巻島さん?」
    わぁあ、とどこからどう見てもパニックになっている坂道にズイ、と近寄った巻島が、洗面台に両手をつくようにして坂道の身体を閉じ込める。
    言い募っている所に無言で身体を寄せられて、見下ろされて、反射的にその顔を見上げる坂道の顔は赤いまま。
    「……忘れてやってもいいけどな」
    そこにポツリと落とされた言葉に、素直な感情そのままに坂道の表情が明るく変わる。
    「その代わり、詳しく教えろ」
    「…………え?」
    一瞬、後に続いた言葉の意味が分からなかった。
    否。
    意味を理解したくなかっただけなのかもしれない。
    「あ、あの……詳しく、って……何、を」
    「何で夢精したのかってことっショ」
    「わぁあああ!」
    何となく心のどこかで予想をしていた巻島の要求よりも、巻島の口から出て来た言葉を止めたくて、その口元に向かって両手が伸びる。

    と、その時。坂道を助けるように、軽快なメロディと脱衣所のカゴを揺らす振動が辺りに響き渡った。
    「ふぇ!」
    その音に反応したのは、その音が坂道が自身の携帯に設定している着信音だったからだ。
    恐らく昨晩風呂に入る際に、洋服の中に携帯を入れっぱなしにしていた事をうっかり忘れてしまっていたのだろう。
    「あ、あの……」
    けれど今は巻島の腕の中。正面にいるその人を無視して無碍にして電話を探して出るなんてことが坂道に出来る筈もなく、請うような視線を巻島へと上げる。
    「…………電話か」
    ヴ―っと震え続けるそれにしばし沈黙していた巻島も諦めたのか、長い手を伸ばして坂道の着ていた衣服を漁り目的のものを掴むと、坂道の前へと携帯を差し出してくれる。
    「すみません」

    『助けて、坂道くん!』

    短く礼を告げてそれを受け取り、携帯を開いて通話ボタンを押した坂道の耳に響いたのは、友人である真波の声だった。




    (2014.12.21)
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