普段自分を抱いてる東堂さんが受け側になってる所を見た真波くんが「東堂さんやらしい」って思うのを書きたくなってしまった結果がこれです。
一応、巻坂の坂道くん編に続きます。
※特殊設定ワンクッション※
キャプションにも記載していますが、このお話は、東真&巻坂前提の巻東R指定描写があります。
R指定はほぼ巻東描写です。東堂さんは私的巻東な東堂さんで書いています。東真の東堂さんではないです。
エロくはないと思います。期待は厳禁です。
前提設定ですが、またもや夢ネタのため東真&巻坂にブレはありません。
頭の中では半分ギャグで落ちる予定なくらい頭の緩い話です。
どうか深く考えずお読みくださいませ。
甘い声がする。
濡れた音。蕩けるような声。リズムを刻んで軋む音。
「っぁ、巻ちゃ」
──── 『巻ちゃん』
聞き覚えのある響きが真波の意識に響いてくる。
その名前は知っている。知っているけれど、その名前よりも存在よりもよく知っていて、けれど知らないものが、宙にふわりと浮いた思考と身体を引き留めた。
(……とうどうさん?)
彼をそう呼んでいるのはその人しか聞いたことがない。けれど、そんな理由とは別に、真波の耳には確かに聞き慣れた東堂の声に聞こえた。そうだと感じた。
(なんだろう……あまい)
何度だって耳にした覚えのある、既に嫉妬する域を超える程に聞いた名前。
その名を呼ぶ声は何度も聞いてきた筈なのに、真波の耳は確かに東堂の声だと判断しているのに、その声は初めて聞く声だった。
「まき、ちゃ……ッん、」
甘い。甘えるような鼻にかかるような、笑う時とはまた違う、少しだけ高く響く声。
こんな声聞いたことない。
響く。
耳に、脳に、響く。
(今更巻島さんの存在に何か思ったりなんてしない、けど……でも)
東堂が自分を大切に思っていてくれているのは分かっているつもりだ。
真波にも、坂道という他にはない存在がいる。
でも、それでも。
自分も聞いたことのないような声で甘えないで。強請らないで。
(……何か、いやだ)
嫌だ。
そう思った瞬間、機械の電源を落とすかのように、聞こえていた声も濡れた音も全部消えた。
(…………え?)
その代わりとでもいうように、次の瞬間真波の意識いっぱいに広がった光景に、目を見開く。
先程までの音の正体はこれだと突きつけられるそれは、音のない映像のようで現実味がない。
初めは、そう思った。
(え、でも、これって!)
見たいわけじゃない。
そう思っている筈なのに目が釘づけになってしまう。どうしようもなくその動きを、表情を、目で追ってしまう。
(東堂さんが、巻島さんに……)
──── 抱かれてる。
こともあろうに、夢の中の意識いっぱいに広がったのは、恋人である東堂と、そのライバルであり親友であり、更に坂道の恋人である巻島が肌を合わせている光景だったのだ。
音がない。声も聞こえない。荒い息遣いも、軋む音も、肌がぶつかる音さえも。
それなのに、その光景は音がないにも関わらず、真波が目を離せない濃密な空間を作り上げていた。
一糸纏わぬ姿の二人。仰向けに転がった東堂に覆い被さるように身体を倒していた巻島の身体が、不意に起きあがる。その視線がチラリと横に流れて真波の意識へ向けられた気がした。
これは夢だ。そう分かっていても身体がビクリと跳ねる感覚がする。
通常人には見せることのない行為を覗いている、その罪悪感。
ドクリと心臓が血を送って、それでも。
(だって、こんなの目を離せないでしょ)
耳慣れない声音を聞いた。
それを嫌だと思った。
自分を抱くその身体が、他の男に抱かれてる。
見て楽しいかと聞かれれば、そんなことはないと言う。
でも。
(あんな東堂さん、見たことないや……)
巻島の身体を受け入れるように広く開いた足は宙を蹴って、その伸びた脚が時折快楽にピクリと跳ねる。
腕を上げ脇を曝して、後ろ手にシーツを掴む指先。綺麗についた腹筋が、荒い息を吐き出すために上下に動く。
──── 『巻ちゃん』
音は聞こえない筈なのに、また、あの名を呼んだ気がした。
そのために開いた唇からは柔らかな舌がチラリと見えて、唇は唾液で濡れて光を反射する。
真波を抱いている時ですら冷静さを保とうとするその瞳が、熱を帯びて蕩けているのが見えた瞬間、ざわりと真波の背中に何かが這い上がった。
(あんな顔、見たことない)
自分が抱かれている時、いつも自分ばかりいっぱいいっぱいになっていると感じていたのは嘘じゃないんだと、夢であることも忘れてそう思う。
普段隠されて焼けていない肌の色は、真波も見覚えのあるそれだ。それが興奮と快楽で朱く染まる姿は、ジワジワと真波の身体の熱を上げた。
(ズルい。なにあれ、ずるい)
そんな子供じみた感情を巻島に感じるまま視線を向けると、その口元が二ィ、と歪んだ気がした。
汗に濡れた長い緑の髪をそのままに、ズルリと音を立てるようにして身を引く。そうして今度ははっきりと分かるように口を開き歯を見せて笑みを浮かべると、浅くゆったりと腰を動かしていくのが見えた。
それに反応したのは真波ではなく組み敷かれた東堂の身体で、ふるりと身体を震わせると首を竦ませ、黒い艶のある髪をシーツに擦りつけるように頭を振る。唇が動いているけれど、相変わらず音はないままで、何を言っているのかは分からない。
そんな東堂と視線を合わせた巻島の口元には変わらず笑みが浮かんで、そして小さく首を振る。
ギリ、と歯を食いしばって唇を引き結んだ東堂の目に迷いが浮かんでは消え、その度に欲の色が増した。
(……意地悪だ)
音のない世界で真波はそう思った。
真波の視界に入る東堂の中心は張りつめて勃ちあがっていて、それを目の前にいる巻島が気付かない筈がない。
目元も頬も首元も胸も、普段とは違う色に染まっている。
焦らして、強請らせて、名を呼ばせて。
どこまで独占する気だろう。させる気だろう。
(坂道くんでも、東堂さんでも、いやだ)
今見ている巻島が坂道相手に同じことをしていると思うと嫌だ。
けれど、それが東堂相手だからそうしていると考えるのも嫌だ。何だか東堂のことを分かっているのは自分だと言われているようで。
それでも二人の行為から目を離せないのはどうしてだろう。
──── まきちゃん
耳に残ってしまったあの甘ったるい声が脳を駆け巡る。
視界の中で動いた身体に反射的に目をやると、東堂の腰がぎこちなく、それでも艶めかしく揺れて、巻島のそれを誘い込むように動いていた。
(なにあれ、やらし……ッ)
うわーっと思わず口が小さく動いた。自分の声も音を成していないことに安堵すると、それでも真波は手のひらで口を塞いで二人を見つめた。
誘うその動きと、おそらく巻島に懇願しているのだろうその声に、巻島の口角が上がる。腰が動く。
真波自身も知るあのどうしようもなくなる場所を突いたのか、東堂が胸を反らして身体を大きく跳ねさせるそれに、真波もつられた。自分がされたわけでもないのに、東堂にされた時の感覚が身体に奔る。
心音がどんどん早くなって、呼吸まで荒い気がする。口を覆った手に当たる呼気が熱い。
(わ、え……だって、東堂さんの、顔、凄い)
壮絶。
真波に被さる東堂だって、その色香は相当だ。整った顔に熱の籠った瞳。流れ落ちる汗と熱い息遣い。真波と呼ばれれば視線を向けずにはいられなくて、目の前で見なければいけないそれを見たくて、でも目を逸らしたくて、いつも真波の頭はグルグルしている。
それとは違う顔で、空気で、快楽を訴えるその人がいる。
(……オレで、あぁなってくれないのかな、東堂さん)
ねぇ。
いつもオレばっかりいっぱいで、何か悔しいって言うと年上としての意地だとかなんだとか言うけど、オレだってそんな顔、見たいよ。
あの人を抱きたいだとか、そういう感覚じゃない。あの顔が自分も欲しい。ズルい。ずるい。
東堂の顔と身体を蕩けさせている巻島の長い腕が動いて、その胸を弄る。ぷくりと立った小さな突起に指を這わせれば、感覚を堪えるようにシーツを掴んだ腕に額を擦りつける。円を描くように先端を擦りながらそれを押し潰せば、指が動く度に小さく身体を跳ねさせる。
(あれ……?)
自分が東堂の胸に触れた時は、あんな反応じゃなかった。そのことにムッと眉が寄る。
胸に伸ばした腕とは反対の腕で小さな容器を手にし、抜きかけた屹立にその中身をトロリとかけた巻島が、ソレを奥まで一気に埋め込んでいく。東堂の身体に入りきらない液体が、身体と身体の隙間でグジュリと卑猥な音を響かせたように見えた。
身体を弓なりに反らせて反応した東堂の手が、尖った胸を弄る巻島の手を退けさせようと動く。それでももう限界が近いのか、緩慢な抵抗にすぎないそれを物ともせずに動く巻島の指先は突起を摘み、押し潰して緩やかに撫でていく。
動く腰は変わらず東堂を追い詰めて、追い詰めて、そうしてその腕は小さなボトルを東堂の胸元へと差し出していく。チラリと覘いた赤い舌が巻島自身の唇をなぞる。
──── もうダメ、だ
濡れて震える唇がそう動いた瞬間、傾いたボトルから朱く色付く突起に中身を落とされ、その小さな鋭い刺激と共に奥を抉られて、東堂は張りつめさせていたソレを開放させた。
* * * * * * * * * * * * * *
「…………わー……」
目が覚めた真波の第一声は、それだった。
元気だ。もの凄く、元気だ。
というか何か刺激があれば直ぐに達してしまいそうな程に張りつめている。何がと言う必要はないだろう。多分。
「……とーどーさんのせいだ」
「オレが、何だ?」
「ぴゃ!」
絶対これは夢の所為だ、と小さく呟いたそれを、真波を抱えて眠っていた東堂に見事に聞かれていたらしく、間近からかかる声に驚きの声を上げる。自分を背後から包み込むこの人は一体いつから起きていたんだろうか、と考えながらも、昨日は一緒に布団に潜って幸せな気持ちで眠った筈なのに、どうしてあんな夢を見てしまったのかと思う。
「……おまえが先に起きるのも珍しいな」
どうやら東堂も寝起きなようで、僅かに擦れた声が真波の耳裏から届く。その後、朝の挨拶のようにその耳に小さく口付けられてピクリと身体が跳ねた。
「あの、東堂さ、んっ今は、だめ」
背中から感じる温もりと響く声。それに真波の体温を確かめるようにスルリと腹の方へ伸びてくる腕に、マズいと感じる。
だって、もう限界が近いのだ。
寝起きで、男同士で、恋人同士で、きっとそんなに気にする事でもないのかもしれない。
それでも恥ずかしいと思うし、何より夢見が悪すぎる。
「? 今は、って…………あぁ。随分と元気なものだな」
「う~っ」
東堂の腕から逃れようともがいたことが完全に裏目に出て、早々に身体の反応が相手にバレて唸る。ハハッと少し押し殺した笑いは、何だか子供扱いされているようで悔しい。
「抜いてやろうか?」
「って、東堂さん、言う前に、触っ、てる……!」
伸びてきた腕がするりと音もなく寝間着と下着を掻い潜って真波の中心に触れる。
そうなるかもしれない、と気付いたからといって、触れられる感覚を簡単に享受出来るわけじゃない。真波を煽り翻弄するのが上手い東堂の手なら尚更だ。
「っぁ、待っ、て、本当すぐ、出ちゃ」
「出るようにしているからな」
「も、意地悪……っひ、んッ、やだぁ、ッア!」
むり無理、もう無理!
そう主張する間もなく、ビクビクと身体が跳ねて身体を丸めて、あっけない程簡単に東堂の掌に溜まっていたものを吐き出してしまっていた。
「ん」
「っ、ゃ、それや、だ」
短い満足気な息を吐き、真波の出したものの大半を掌で受け止めた東堂の指が、達したばかりの先端を軽く擦り、その刺激に身体が震える。最後の残滓まで掬い取るようなそれに、思わず荒くなってしまった息の中で、真波はやだ、と繰り返した。
「……今日は素直じゃない日か?」
ふは、と息を吐く真波の衣服から掌を抜き出して、涼しげな顔で枕元にあるティッシュで手を拭く東堂の声は微かに楽しげだ。
恐らくは、これからどう真波の心を読み取って想像して、それをプラスへ向けていくのかを考えているのだろう。
(絶対、今日のは予測つかないよ)
待ってと言ったのに手であっさりとイかされたことと、また自分ばかり余裕でいる東堂に、何だか意地のような気持ちが湧いてくる。
普段真波の考えていることや行動の先を、東堂は何故か言い当てたり先読みすることがある。
東堂曰く「おまえを見てれば分かる」とのことらしいが、同じ部員である荒北に『不思議チャン』と言わしめた真波のことを理解する人間は、ごく少数だろう。
真波に関してのことをごく簡単に言うが、東堂はその少数の中の一人だというだけだ。
「……東堂さんは、今日はエッチな日?」
悔しさにプクと頬を膨らませて、僅かに身体を起こしていた東堂を布団の中に引き摺り込みその顔を見下ろせば、珍しくも薄い色素を持った瞳が驚きに見開かれる。
「そうだと言ったら?」
けれどそれも一瞬で、どこか必死な表情の真波を見上げて口端を上げると、東堂は真波のそれに乗った。
(……ちがう)
いつもであれば、それは何の不思議もない普段の流れだ。
突然の真波の行動に東堂が反応し、そこから真波は本能のままに、東堂はそれらを頭で計算して動いていく。
(欲しいのは、あの顔なんだ)
それが違う。
欲求のままに動いていることは変わらなくとも、今日の真波には東堂の知らない理由がある。
夢で見たそれをこの目で見たい。自分の元で、あの姿を見てみたい。
その欲のままに、東堂の寝間着であるシャツの裾から手を忍ばせて、肌を曝していく。均整の取れた腹と胸がきれいだと思う。その肌に身を寄せて、顔を近づけて、夢で見たそれとは違い色味の淡い突起にちゅっと口付けた。
「……真波?」
(まだ、普通)
服が顔に被さってきて東堂の顔が見えず、聞こえた声でそう判断する。
夢の中のあの人はそういえば口じゃなくて指で触れたんだった。
そう思い出すも、何となく同じことをしてしまうのが嫌で、そのままチロリと出した舌でそれを舐めた。何となく、東堂の味がする気がする。肌の味。汗の味? 分からないけれど、好きだと思う。
何だか楽しくなってきてそのまま犬か猫みたいに胸を弄っていると、優しく髪に指を入れ掻き混ぜられた。
「こら、おまえは」
まったく、本当に読めんな……と、愛しげに笑う東堂の顔は好きだ。愛されている気がする。
でも違う。今見たいのは、その顔じゃない。
「……オレが巻島さんじゃないから?」
ついポロリと言葉にしてしまった。
「は? 何故そこで巻ちゃんが出てくるんだ……?」
眉目秀麗。その言葉がよく似合うその眉が、意味が分からないと顰められる。
──── 『巻ちゃん』
「……ッ!!」
あの声が聞こえた。
というよりも、今目の前の東堂の発した名前に、あの声が重なった気がして、飛び起きるように東堂から身体を離しベッドから這い出た。
「あ、ちが……わかんないごめんなさい!」
どうしよう。よく分からない。あの声が離れない。あの顔が見たい。見たい。
考えがまとまらない、そう瞬時に判断した真波はどうしてか口に出てしまった謝罪の言葉を告げて、ギリギリ寸でで携帯だけを握りしめて家を飛び出していた。
真波!?と、東堂が焦り自分の呼ぶ声が聞こえた。でも、今は止まれなかった。
「助けて、坂道くん……!」
そうして真波は、走る足を止めないまま、携帯を握りしめてライバルであり友人でもある坂道の名を呼んでいた。
(2014.12.19)
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