夢か現実か未確定な感じですが、女体化した巻島さんが坂道くんにちょっと(?)えっちなことをする話です。
    巻島さん女体化ですが、巻坂です。
    巻島さんに胸があってアレがないです。そんな巻坂です。
    趣味でお風呂であれやこれやなことをしてますが最後までは書いていません。




    ※念のためワンクッション


    ●この話は、巻島さん(♀)×坂道くんです。
    ●巻島さん女体化です。
    ●ちょっとお風呂でマニアックなことします(not過激)
    お付き合いだとかそういう事の描写は省いていますが、坂道くんは巻島さん大好きです。
    巻島さんも坂道くんカワイイ設定です。

    いい夫婦の日だからってネタ考えて書き始めたのに過ぎました。
    あと全然夫婦関係ないです。
    エロに期待はしないでください。お願いします。








    流れるメロディと、それにタイミングを合わせるバイブ音に意識が浮上する。
    「うん……なに…?」
    他から突如引き上げられたことにより、まだ薄ぼんやりとしている視界と思考回路。そうさせた手のひらサイズの物体に無意識に反応したのは坂道の腕で、それを彷徨わせては手首を回して付近を叩くことを何度か繰り返し、ようやく目的の物に触れた。
    おかしな体勢で眠っていたのだろうか、身体が若干痛い。身体というより首かもしれない。
    携帯の画面を見るために若干ではあるが身体を動かして、最初に思ったことはそれだ。
    (……何か、いい匂い……安心する)
    ギュッと手のひらに携帯を掴んだものの、まだその存在は坂道の視界に入ってもいない。ブブブ、と震え続けるそれは坂道が再び眠りへ誘われることを阻止しているのだが、その理由は分からない。
    今日は何か予定があっただろうか。
    そうぼんやりと考える坂道の顔は伏せられたままで、うごうごと布団の中で動く様は、まさに寝起きの悪い…または往生際の悪い目覚めの代表的な姿だ。
    (鳴ってる……起きなきゃ)
    しかしどうして今日はこんなにも寝覚めが悪いんだろう。そう思いながらようやく携帯を掴んだ腕を身体の方へ引き寄せて、その腕を支えにして身体を起こす。坂道の小柄な体躯を包んだ柔らかな寝具は、その大きさで緩慢な動きを受け止めて、身体を起こした坂道を頭部を除きはするが変わらず包み込んでいる。
    (……あ)
    身体を起こしたことで先程感じた『いい匂い』が鼻先から遠ざかり、少し起き抜けの胸に寂しさが湧いた。
    が。
    「起きたか小野田ァ」
    そんな感情は、開かれた扉の前に立ち携帯電話を耳元にあてながら坂道を呼ぶその存在に、一気に吹き飛ばされた。
    「え!? ま、まままま巻島さん! あの何で、え、これは、えっと、その!」
    吹き飛ばされた感情の代わりに見事に入り込んだ意識。聞き間違える筈がないとさえ思う憧れて止まない人の声に反応したそれは、ベッドの上に正座した坂道の身体をワタワタと慌てさせる。
    「何でっつーなら、ここが俺んちだからだナ」
    巻島はそう言って、驚きと寝起きそのままの姿を見られた恥ずかしさで顔を赤くする坂道の座るベッドへと歩み寄る。と、指先で掴んでいた携帯電話をベッドサイドへ置き、その特徴でもある長い腕を伸ばして丸い坂道の頭を撫でた。
    その数秒前に、煩いほどに手の中で響いていた坂道の携帯の音もそれに合わせたバイブもピタリと静まり返ったということは、その発信源はおそらく巻島の携帯電話だったのだろう。
    「あ、あの……」
    坂道が見上げても、巻島の手は離れない。その優しい掌に坂道の心は歓喜の色を示すが、しかし。
    ──何か違和感がある。
    理屈では言い表せない何かが、坂道に警報を鳴らしていた。




    『おまえ、頭ぼさぼさショ』

    そう言って坂道が巻島に対し警戒と抵抗を示す前にズルズルと連れてこられたのは、広いバスルームだった。
    クハ、と坂道を見て笑う姿も、その顔も、声も、確かに坂道の知る巻島だ。その筈だ。だって、自分に自信をなかなか持てない坂道が聞き間違える筈がないと、そう思える人なのだから。
    それなのに、坂道の中のどこかが、何かが違うと必死に訴えてくる。

    ──今は何年何月何日?

    ──坂道と巻島の関係は?

    ──自分は何故今ここにいる?

    それら全てに直ぐに答えられない。
    どうして。
    最後の問いに関していえば、今ここにいるのは坂道が巻島に逆らいきれる筈がないからだ、と言えない事もないが、問いの真意はそういった意味でない事も無論分かっている。
    「ホラ脱げ」
    現状把握に忙しく、そして受け止めきれないこの流れにアワアワと挙動不審に身体を動かす坂道の服を、巻島が器用に剥ぎ取っていく。
    ボタンのないシャツをグイ、と引っ張られ首の穴から顔を出すと、無意識にプハッと息が漏れた。
    上半身裸になった坂道が肌寒さを感じないのは、そういう季節だからか、それとも脱衣所であろうと室内温度を保てそうな巻島邸だからか。
    巻島に名を呼ばれて目が覚めた筈なのに、どこかがぼんやりする頭。あぁここも巻島の匂いがすると、坂道の鼻が訴える。ということは、普段巻島の匂いだと感じるものはシャンプーやボディソープの香りなのだろうか?
    目の前に巻島がいる。全力で慕う存在がある。巻島が坂道に危険な事をするはずがない。その絶対の信頼感。
    それも手伝っているのか、混乱からか、坂道の頭はフワフワしていて、あろうことか弱点とも言えるその場所に巻島の手のひらが近付いている事実に全く気付けなかった。
    そう、触れられるまで。
    「わぁあああっ!」
    「これも脱がされてぇか?」
    何かくすぐったい、とその部分へと視線を下げた坂道は、思わず叫び声をあげていた。嫌悪感や羞恥を軽く飛び越えた驚きに、無意識下で身体がびくりと震える。
    そしてそんな坂道の反応も意に介さず、巻島の指先は坂道の股間…性を主張するそれをゆっくりと撫でている。指と指で挟み、下着の上からでも形が分かるように撫で上げた後、もう一度その指先を下ろし、今度は指の背で擦りあげてくる。
    「うひゃ!」
    と、その指先の卑猥さに目を離せなくなってしまった坂道の口から、色気のない声が上がった。
    「で?」
    「……へ?」
    光を灯した明るい脱衣所。その明かりを遮るように巻島が上から坂道を見下ろし声を発すると、反射的に小さな頭が巻島を振り仰ぐ。
    「自分で脱ぐか、脱がされるか」
    「ひゃああああの、ぬ、脱ぎます自分で脱ぎますか…」
    坂道の考えていた以上に至近距離で口端を悪戯に歪めて笑う巻島に、音がたちそうな程顔全体を紅潮させた坂道はそこから勢いをつけて視線を外し、坂道が選ぶ前に脱がせてしまうつもりなのか下着に手をかけた巻島を引き剥がそうと、その胸元に両手を突っぱねた。

    むにゅ。

    言葉にすればそんな感触に、坂道の動きがピタリと止まる。ついでに主張しようとしていた意思を告げる言葉も中途半端になってしまった。
    (え? え……?)
    まだまだ幼さの残る自分と比べるまでもない、引き締まった胸板を押し返した筈だった。
    しかし、今坂道の手のひらに感じるこれは何だろうか。
    若干開いた指と指の間から、その存在を主張するかのように盛り上がる柔らかなそれ。

    こ れ は な に 。

    「アー……見事に固まってんなァ」
    柔らかなそれを持つ、坂道が巻島だと信じて疑っていなかったその人物が頬をポリポリと指先で掻きながら呟くが、生憎思考回路すら固まってしまった坂道の耳には届いていない。
    顔も、声も、指先の硬さも、巻島だ。巻島の筈だ。
    けれど坂道が触れて、それ以上指先を動かせなくなってしまっているそこにあるのは、女性特有の胸の柔らかさ。いや、胸そのものだ。
    自身の持つ胸に手のひらを押し付けたまま微動だにしなくなってしまった後輩をしばし眺めると、巻島は眼鏡をかけていないその額に遠慮なくデコピンをプレゼントし、痛いと声を発して反射的に胸から離した両手で額を押さえる坂道を、扉の向こうの浴室へと送り込んだ。
    「わ、わ!」
    ドン、と押された身体が倒れないようにつんのめりながらもバランスをとる坂道を見遣りながら、巻島も同じように浴室へと足を進める。
    音を立てて後ろ手にバスルームと脱衣所を仕切る扉を閉めると、ピクリと坂道が身体を反応させ、そしてギギギ、と音を鳴らしそうな程のぎこちなさで巻島へと振り向く。
    「……言っとくが」
    疑うような、窺い見るような視線に耐え切れず、巻島は坂道よりも先に口を開いた。
    『巻島さん』
    そう言って全力で、全身で、好意を訴えるかのように巻島へと向けられるキラキラとする視線。気恥ずかしくもくすぐったくもあるそれではない視線を他でもない坂道に向けられることが、巻島の胸をズキリと痛めたからだ。
    「気のせいでも、別人でも、姉妹でもねぇヨ」
    巻島裕介本人だ。
    そう言えば、完全に身体ごと振り向いた坂道が、声に出さずに巻島の名を繰り返す。それに疑問符がついているように感じたとしても、根が素直で素直すぎる坂道の瞳は先程よりも随分と普段の光を取り戻しているかのように見えた。
    「まき、しま……さん」
    小さな小さな坂道の声が、音となってバスルームに響く。
    (あぁこれは何だろう。夢かな? それとも、巻島さんと一緒に二次元に飛び込んだのかな)
    既に湯がはってあるのだろう浴槽からの熱気で、未だ現実味を持たない坂道の思考が更にふわりと宙を浮く。
    「理由は分からねぇケドな。ま、楽しもうぜ坂道ィ」
    そう言ってばさりと音を立てて服を脱いだ巻島の胸には先程感触を感じた柔らかな胸があり。
    ついていた筈の男の象徴は、見事なまでに下腹部に存在しなかった。

     * * * * * * * *




    「ま、まきしまさんッ、あの」
    ふわり。ぬるり。
    白い泡が坂道の身体にこれでもか、と塗り付けられていく。
    ふわふわと泡立つそれはバスルームに香りを充満させているボディソープ。
    女の身体を持ちながらも自分は巻島裕介だと名乗る巻島を理解など到底出来ないまま、それでも巻島に恐る恐る近づく坂道の腕を取り半ば無理矢理にバスチェアーに座らせると、巻島はその身体を傾けさせて唯一残っていた坂道の下着を剥ぎ取った。
    その下着を自分の脱ぎ捨てた衣服の辺りへポイと投げ捨てると、ボディソープを目一杯泡立て柔らかな線を持つ女の身体へ塗り付け、”身体を洗ってやる”と囁いたその姿は、坂道の目にどう映っただろうか。
    白い泡を主に胸元に纏わせ、この時はまだ何をするのか想像すら出来ていなかった坂道の後ろへと回り、ぴとりと坂道の背中に肌を張り付けさせた瞬間、坂道はこれでもかという程に顔を真っ赤にして暴れた。それが何なのか頭で理解するより前に、身体が動いたのだろう。
    無理です駄目ですを繰り返す坂道の様子にじわじわと苛立ちを募らせた巻島は、眉間に皺を寄せた。溜息も吐いた。最初は坂道が恥ずかしがる様を楽しいと感じていたが、拒絶を繰り返されればテンションも下がる。自分は何をやっているんだろうかと我に返りかけて、イヤ駄目だ今正気に戻ろうもんなら自分が憤死する、と考える。
    その時点で随分正気に戻っているような気もするが、それを訴える感情を何とか無理矢理ねじ伏せた。
    「やめろ以外なら聞いてやるショ」
    何度目かの問答の末、意を決するようにお願いしますと巻島に背を向け直した坂道の身体を洗う。拒絶は無くなったものの、巻島の身体が動く度に坂道の身体が大袈裟なほどにビクリと跳ねるのは、恐らく仕方のない事なのだろう。やわやわと塗り付けられる白い泡と感触と巻島の香りに、坂道の頭はもはやパンク寸前だ。
    「あああああの、これって、ぐ、ぐらびあ的な…?」
    「正確に言うならソープだとかAVってやつだナ」
    何か別の事をして気を紛らわそう、と言葉を発した坂道に返す巻島のそれは、坂道により現状を突きつける形になった。
    えーぶい、とアルファベットにすらならない発音で巻島の言葉を繰り返す坂道の抵抗がほぼなくなっていることを確認すると、巻島は後ろ手に拘束していたその細い両手首を開放した。
    グラビアが趣味である巻島も、流石にこういった行為のコツまでは知る筈もない。更に言えば今は勝手も分からない女の身体だ。
    自分がすることは勿論、されたことすらない、薄い知識でしかないそれを実行に移そうとした理由は、ごく単純に興味からだった。
    膨らんだ女の胸。締まった腰から尻までを繋ぐライン。柔らかな身体。
    クライマーである巻島の身体を元にしていることもあり、脚や腹辺りには一般的女性とは言えない形の筋肉がついているが、それすらも無くなっていたとしたら巻島自身がこの身体に今以上に疑いを持っただろう。
    しかしこれまで持つことのなかったものを手にした巻島に湧いたのは好奇心で、それに坂道がどんな反応を示すのか、見てみたくなった。恐らくこういった事に慣れていない、下手をすれば巻島が行動に起こそうとしていることの存在すら知らないであろう坂道は、間違いなく顔を赤くして恥ずかしがるだろう。
    ──けれどそれを気持ちいいと認識したら?
    頬を羞恥とは異なる意味合いで紅潮させて快楽を露わにする坂道を想像して、驚く程に身体が疼いた。あぁこれは試すしかない。どうしようもなくそう思ってしまったのだ。
    解放にしばし遅れて手首の拘束を解かれたことに気付いた坂道が、もぞ、と身体をくねらせる。と、少々遠慮がちに言葉を紡いだ。
    「あの、僕も、その、巻島さんの身体洗った方が…」
    いいんでしょうか…?
    後半になるにつれ次第に尻すぼみになってしまったそれは、浴室という反響性の強い場所のおかげか巻島の耳に最後まで届けられた。
    気付けば胸元に場所を移動した坂道の指は互いを絡ませ合うようにもじもじと動き、こちらを振り向くことも出来ないのであろう程に羞恥を感じているのであろう首元は真っ赤に色付いている。
    あぁこれはナンだ?
    今、巻島は女の身体だ。勃つものはない。それなのに、それなのに。
    クハ、と息の漏れる笑いが、どうしようもない巻島の欲を表している気がした。




    「っん、ぁまきしま、さ」
    先程の問いには不要の旨を吐き、坂道の背中に変わらず柔らかな胸を押し付け、離し、そしてまた今度は肌を撫でるように胸の突起ごと擦りつけながら、両腕を前に回し平らな胸を撫でまわす。泡をつけた手のひらで感触を感じるギリギリを予想して、想像して、滑らかに肌を辿れば、バスルームの空気は先程までとは比べ物にならない程に濃いそれへと変わっていく。
    控え目にあがり始めた坂道の甘い声に鼓膜が震え、巻島自身の身体の熱が上がっていく。
    声を抑えるな、と言葉にするか迷い、恐らく現状は坂道にそのつもりはないだろうと結論付けると、巻島は手と指と身体での愛撫を続ける。下手に言葉にして、今あがっている声を抑えられては堪らないからだ。
    泡に隠した指の腹でこっそりと、桜色に色付く突起周りをなぞってみれば、ひぁ!と擦れた声を漏らして身体を震わせる。友人も少なく、他人に身体を触れられることも少なかったのであろう身体はひどく敏感で、過敏なほどに巻島の動きに反応する。
    それを愉しいと思わない巻島ではなかった。
    「気持ちいいかァ?」
    スリ、と自身の胸の突起を擦りつけて自らも快感を追いながら、坂道の耳裏へと囁く。ぺたんと平らな胸の乳輪をくるりと刺激して、やがてふくりと立ち上がった小さな主張を指の間で擦りあわせれば、また更に甘い声が上がる。
    「ぁ、きもち、いい…です」
    刺激を与える度にピクン、と跳ねる身体は坂道らしく素直で、そして素直に快感を追う坂道からの抵抗は皆無と言っても過言ではない。
    「ひゃ、ぁ…っあ!」
    気持ちが良いのだと主張する突起を、片方は緩やかに撫で、反対側は出ない乳を搾るように摘むと、そのまま先端を擦りあげる。途端にビクリと大きく身体を跳ねさせるその反応と漏れる声に満足気に口元を緩めると、巻島はまだ一度も触れていない坂道の下肢にチラリと視線を送った。
    その視線の先では何かを堪えるように坂道が膝を擦りあわせていて、泡から見え隠れする育ちかけた坂道自身がふるりと小さく震えている。その状況にゴクリと息を呑んでしまった自分はこの先もイイ先輩でいられるのだろうか。巻島の脳裏にそんな思考が過るが、現状こんな事をしている時点で一般的にそれは危ういものだろう。相手が対巻島の坂道でなければ、まずアウトだ。
    どう動いても危うさが消えないのならばそんな先の事を考えても仕方がない、と片手を胸へ残したまま、巻島はするりと下肢へ手を伸ばす。
    「ひぇ」
    まだ割れるまでほど遠い腹筋をなぞり、へそ周りをくるりと一周させて、脚の付け根をゆったりとなぞっていく。
    「……ぁ、」
    小さく坂道から漏れた声は、恐らく期待だ。それを分かっていながら焦らすように、巻島の指先はペダルを回す脚を撫でまわす。脚に意識がいっているであろう坂道に思い出させるように、胸に残した指で傷をつけないように小さな尖りを爪で掻く。
    不意打ちで与えられた刺激はそのまま下肢へと伝染し、じわりじわりと腕の中の身体が熱を帯びていくのが巻島に伝わる。
    酷くしたいわけではない。けれど、与えて焦らして溜め込ませて、その限界の先にある快楽に坂道を投げ込んでしまいたい欲求がジリジリと巻島の理性を食いつぶしていく。
    興味だったはずだ。好奇心だったはずだ。
    それでも、最初から欲が存在した。想像をした。それを求めたから、手を出したのだ。
    「ま、きしま…さん、あの……っわぁっ!」
    もじり。再度脚を擦り合わせた坂道が懇願のそれを紡ぐ前に、その腰に腕を回しバスチェアーからマットへと前触れなく引き摺り下ろした。マットへ尻もちをつく形で巻島の前に顔を見せた坂道は、欲に瞳を揺らめかせながらも表情には疑問符を浮かべて巻島を見る。
    「え、あの、ぼく何か変な事…って言いそうになってましたごめんなさい!」
    わぁあと色気もなく慌てふためく様はどうしてか、巻島の目には愛らしく映る。言わずとも分かっていた…むしろ自ら言葉にして強請るまで焦らすことも考えていたのだと伝えたとして、この後輩はそれを理解するまでにどれほどの時間を要するだろうか。考えるだけで、理解しようと必死になる坂道の思考を妨害するように身体を弄りたくなる。
    SかMか。そんなことは知った事ではない。巻島にとってすれば、相手が坂道だからそうしたくなるまでだ。他の人間相手では考えた事もない。想像してみる意味も分からない。ただの本能。欲望だ。
    ハッと歪めた口から熱の篭った息が漏れる。あぁ、どうしようもなく今見下ろしている相手が欲しい。
    「巻島さ、ん?」
    頬を、肌を染めて、巻島を見上げる坂道の上半身が、じわじわとマットに横たわっていく。身体を支える手首がやがて肘になり、背が、肩がマットについたかと思えば支えという役割を終えた腕が持ち上がり、その先端である両手が坂道の顔を覆い隠してしまう。
    「あの、すみません! 巻島さんの、その、身体というか、さ、触り方というか、が気持ちよくてですね、その……!」
    巻島の特徴でもある色の混じった緑の髪が坂道の手のひらに影を作る。坂道がマットに背をつけた理由は、間違いようもなく巻島が身を寄せたからだ。
    言葉を発することなく、欲に濡れた目でじっと見つめ、巻島が近付けば遠ざかる。
    けれどそれが後退ではなく、降参、と腹を見せる動物のようにそのまま沈んでしまうという辺りが坂道らしい。巻島の腕という檻から、逃げようと思えば逃げられるはずなのに、そうしようとしないのだ。
    「その、何だ?」
    逃げない坂道を逃がすつもりもなく、言葉を詰まらせた坂道の次を促す。もじり、と焦れるように組み敷いた身体が動き、暫くはモゴモゴと動くだけであった唇が、震える。

    「……その…………た、勃ってしまい、ました」

    瞬間、巻島の中で何かがブチリと切れた。
    「わわわぁ、あの!」
    「……邪魔だ坂道。脚伸ばせ」
    「ひゃい!」
    未だ顔を隠し続ける手の指にガブリと噛みつくと、恥じらいと覆いかぶさられるという未知数の出来事に丸まっていた膝を伸ばせ、と唸る。その声の低さと巻島の放つ空気と指の隙間から見える巻島の表情に坂道はビクリと身体を震わせ、巻島の身体の下でピンと身体を伸ばした。脚という隔たりを無くした屹立が空気に触れ、ふるりと震える。
    「あと、手ェ退かせ。見えねぇショ」
    「むむむ、無理ですぅ」
    先程まで坂道が素直に快楽に身を委ねられていたのは、背後からという行為により巻島に顔を見られ辛いという点があったからだ。それが今はどうか。
    (近い! 近すぎて直視出来ません…!)
    視線を僅かでも上げれば巻島と至近距離で視線が合い、吐息が聞こえそうな距離で、そして恐らくは今の巻島の胸部にある膨らみも目にしてしまうだろう。
    それらを目にして耳にして、正気で居られる自信などない。こうなるよりずっと前から、坂道の頭はぐつぐつと煮えたぎって沸騰して、今にも弾け飛んでしまいそうなのだ。
    そんな坂道の内心など知るつもりもなく、巻島は坂道の上で身を捩る。チラ、と坂道の下肢に視線を向け、位置を確認し、その場所へと粘膜を近付ける。
    「なら、後で覚えてろ、ヨ」
    「え、ぅわ、あ、ア……ッ!」
    坂道の耳にふっと巻島の荒い息遣いが聞こえた。と同時に、下肢に強い刺激が強制的に送り込まれた。ビクリと大きく腰が震え無意識にその刺激から逃げ出そうとするが、上から押し付け擦り寄せてくるそれが坂道を逃すまいと追いかけてくる。
    「ひぁ、っあ!」
    顔を隠した指先をギュッと握る。ぶるりと身体が震える。震えてしまう。ぬるりとした粘膜が、熱い温度が、坂道の屹立を撫で擦りあげる度に、ビクリと身体が反応する。
    「ふ、ッは……ガマンすんなよォ、坂道」
    予想よりも摩擦もなく滑っていく粘膜同士の触れ合いと、自分の感じる感覚に、腹筋を使い腰を揺らす巻島はこの身体も十二分に熱を孕んでいたのだと知った。上から垂れ流れていったボディソープの泡もそれを助けているのかもしれないが、じわりと痺れを訴えるそこはオンナらしく濡れているのだろう。
    初めて触れるそれを粘膜で擦れば濡れた音が鳴り、坂道が喘ぐ。ぐ、と身を寄せれば触れ合う面積が大きくなり、巻島の普段は隠れる小さなそれが坂道の育ったそれに擦られ、巻島は肉感の増えた尻をふるりと震わせた。
    挿れる。挿れたい。その欲が快楽と共に大きくなる。
    「ッハ」
    今の巻島の身体には挿入するモノがない。それでも欲が止まらない。
    ならば、どうするか。
    中を味わえないならば、中で味わえばいい。
    あっぁ、と声を上げ快楽を追う坂道の顔を隠す腕は一本に減った。腰を上げれば擦り宛てた互いのそれをつっと糸が引き結ぶ。
    ──あぁこれは夢だ。
    どうしようもなく欲に塗れて、手に入れたいものを蕩けた状態で自分の中に取り入れる。鼓動が早い。蕩けているのは巻島か、坂道か、それともここに存在する互いにか。

    ぬるり。硬くなったそれの先端に粘膜をあてる。ぐじゅ、と卑猥な音が鳴る。
    あぁ、手に入れたい。手に入れたい。
    これはどちらの夢なのか。

     頭上でジジジ、と音が鳴る。

    腰をくねらせ、そこが受け入れるように口を開く。熱に取り込まれた坂道の顔が巻島の瞳に映る。

     光と闇が繰り返される。


    ────、き



    どちらが発したのか分からないその響きを待ち構えていたかのように、点滅は暗闇へと化した。
    思考も欲も、互いの顔も全て塗りつぶして、夢は終わる。
    最後に互いの耳の奥に残ったものは、甘く辛く、そして寂しくも幸せとも感じる小さな呟きだった。






       Fin.



    (2014.11.23)
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