自分の呟きでココロさんが描いてくださった枕ネタ東真に激しく萌えたので勝手に続き書いた






    ギシリと鳴ったベッドは予期してなかったことが始まる合図だった。


    近付く気配。被さる影。視線を上げれば、あぁこれ駄目だと思うとうどうさんの顔。
    「と、どうさん、オレ明日……!」
    「メガネくんとの約束は昼からだったか?」
    まずい。マズい。逃げ遅れた。
    それまで普通に動いてた心臓が、意識下で命令したわけじゃないのに心拍数を増す。
    ベッドに寝転んで弄っていた携帯を振りながら圧し掛かる人に主張すれば、何のことはない。知ってると言わんばかりの声音で、一度しか口にしていない翌日の自分の予定を返される。え、なに、分かっててそうなの?なんて言葉を吐き出したいのに何故か言えない。
    坂道くん。
    翌日の予定を調整するやりとりを目的に手にした携帯電話から、思わず浮かんだ名前に反応するみたいに、ピロンと少し間抜けな音が響く。
    あ、返信。
    そう思いはするけど、きっと届いた言葉は返さなくても完結してる筈だ。でも。分かってるけど、でも。
    「そう、だけど!枕!」
    遠慮なく近付いてくる東堂さんから距離をとろうとして、捻って起こした身体にもう少し無理させて、それからついでに『NO』と書いてある面を上にした、この部屋にあるには少しファンシーな枕をバシバシと叩いて主張する。
    だって、ノーって主張してるのにこうなるってどうなの?おかしくない?ねぇ東堂さん。
    「だから言っただろう、その気にさせたくなった、と」
    「なんでそうなるの!?」
    「さぁな」
    口元は緩やかに笑ってるのに、瞳に浮かんでるそれは明らかに本気で、怖いとか嫌だとかそういうんじゃなく身体が無意識に東堂さんから離れようとずり上がる。けど、おかしな体勢からの行動はまともに身体を動かしてはくれなくて、この場から逃げるために俯せの姿勢に変えた途端、うなじに温かいものが触れた。
    「 」
    次に耳に響いたのは自嘲じみた笑い。声じゃなくて吐息だけ。首筋に少しだけしっとりした束の感触が下りて来て、温かいのの正体は東堂さんの額かな、なんてぼんやり思う。
    ……あ。
    お風呂上がりのいい匂い。
    互いの距離が近付いて、触れてないのにふわっと温かくなる温度。
    そこまで理解して、逃げるのを忘れた事を思い出すタイミングで、いつもより温かい手のひらが背中に触れた。

    『その気にさせたくなった』

    そんな言葉とあんな表情で迫ってきたくせに、直ぐに入り込んでくると思った手は予想に反してシャツの上からゆっくり身体をなぞって動いてく。それはマッサージをする時みたいに身体を温める感じに似てるのに、気を抜くと首筋に熱い吐息がかかってそのまま唇が下りてくる。ちゅ、っと小さく鳴るリップ音が耳の傍で響いて、あれ何か気持ちいいなと思ったら、背中を撫でる手のひらを意識して。
    「真波」
    もう一回、東堂さんがオレの名前を呼んだ。
    「……どうだ?」
    返事をしなかったら、何がどうなのかわからない疑問を愉しげに差し出されて。
    「へ?」
    「なったか?その気」
    「なってないです」
    「だろうな」
    エッチする気になってないって言ってるのに動く手は止まらなくて、東堂さんは楽しそうで、振り返った顔は首が痛くなりそうで早々に元に戻した。
    場違いみたいになってる携帯を握ったまま、枕を掬い上げるみたいにして抱え込んで頭をその上に落ち着けたら、フハって空気が抜けるみたいな笑い声が背中から響いて来て、可笑しさが分からなくて首を傾げる。
    あれ?これ何か、おかしい?
    「……っン」
    首を傾げながらこの状況を思い返していると、下方に動いた手のひらでお尻を撫でられて、ほんの小さく声が漏れた。あ、触った、みたいな反射で出た声。それを気にせずに手のひらはそのまま下に降りて腿を撫でて、そこからまだ戻って今度は内側へ。
    「ぁ……っ」
    脚の付け根の境界線をするりとなぞられて、ピクリと脚が跳ねた。漏れた声も、反応も、何が大きく変わったわけじゃないのに、東堂さんが笑った気がして。
    「な、に」
    脚とお尻とその狭間を撫で続ける手の動きがやらしさを増して、ギュッと枕を掴む。声が、上擦る。ざわりと鳥肌が立つ、その一歩手前。
    「まだだろう?」
    顔と視線をずらして覗き見た表情に、まだと返してようやくやっと、携帯電話を解放する。



    東堂さんの顔にひっくり返した枕をぶつけるまで、あと少し。






    (2015.06.18)
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